映画評 ベンジャミン・バトン
昔、幼少時に、山手線に乗ると、同じ方向に青い京浜東北線が走っていた。
スピードが同じくらいで、無効の車両に乗っている人の姿が見えた。抜きつ
抜かれつ走りながら、自分の乗った電車の方が速いと、妙な喜びを感じた。
この映画は、通常は人と人はこのような人生を歩むのだが、どういう因果か、
対向ですれ違う電車同士の人生を描いた映画である。
不思議な映画である。
主人公のベンジャミン・バトンことブラピは、なぜか、生まれたときが老人で、
どんどん年が若くなっていくという体質の持ち主だ。結論から言うと、彼はそ
の特異体質以外、特筆すべき能力は持ち合わせておらず、この世になんら
影響あることをなしたわけでも何でもない。したがって、ドラマとしてもどこに
でもある一般的な、個人としては重大でも世間的にはどうでもいいような経
験が積み重なって描かれており、歴史の流れは本人とは全く関係のないと
ころで動いている。
それでいて、それなりにおもしろく見せる不思議な映画である。見た人はお
そらく2つのことに気づくのではなかろうか?
一つは、年取るとはどういうことなのか。ベンジャミン・バトンは小さいときは、
少年の心と頭を持った老人である。それなのに、自分たちが彼の目を通じて
世間を見るとき、ついそういった前提を忘れて、自分の年齢で彼の見ている
ものを理解しようとしてしまう。そうすると、年取っている自分と窓の外で遊ん
でいる子供たち、本当は主人公と同年代なのだが、見ているこちらとしては
失われてしまった自らの過去がそこに見えるのだ。やがてベンジャミン・バトン
は大きくなり、中年を迎えてより魅力的な青年となる。彼にとっては普通に
成長しただけだ。ところが自分たちは、今の自分がもし高校生や大学生だっ
たらどうしようか、もっとうまくできるかも、できたかも、と考えてしまう。
二つは、老人と赤ん坊の類似性だ。両者の違いは未来があるかないかで
ある。その点、バトンのいた建物は、未来がない人間の集まりにも関わらず、
変な暗さがなくてよかった。
考えさせられる映画ではなる。
お勧め度 ★ ★ ★ ★


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